貴方の中の小悪魔
を知る神秘の占い《MUMEI》老兵
目を覚ますと、そこが戦場ではなく自分の家であることに彼は気がついた。
「懐かしい夢だ……」
夢であるため、記憶が曖昧だということは否定できない。しかし、あの場面は忘れようにも己の経験がそれを許さなかった。
生まれて初めて撃たれた、あの夜明けのことを。
「生き残れ」
自分に言い聞かせながら、彼はベルリンの市街に歩み出た。
ワルサーPPKを提げた警官が、大股で歩く彼の目の前を横切った。
数十分歩くと、国道沿いに建つ新築と思しき一軒家が彼の視覚を刺激した。その新居に立ち入り、獅子の口に咥えられた鉄輪を玄関ドアに3回、2秒あけて1回打ち付けた。
「おぉ、ハインか」
老いてはいるが、どこかしら筋肉質な印象を受ける男は彼の名を口にした。
フランス共和国反政府組織の元実戦指揮官で、第2陸戦隊隊長を務め、ハイン青年に白兵戦技と優れた射撃精度を叩き込んだ歴戦の勇者、それがこの老人である。
「傭兵隊から身を退いて、何をやっておった?」
「小さな“ファミリー”に身を寄せてました」
肩にかかった後ろ髪を払いのけ、ハインは呟くようにいった。
「ほう……お前のような“在野の雄”に気付くマフィアがいたのか」
心底驚いた様子で目を見張り、背筋の伸ばす老人。
「ええ、小さいながらも、若く有能なドンと老練の参謀役に率いられ、私が組み込まれた私兵集団も充分に訓練されていました」
「ほう……」
老人は好奇心に目を輝かせる。
「きたる抗争に備えておるか。なかなかよのう」
老人は感心したように頷く。
「して、お前がここを訪れた用件は何かな?」
急に眼光が異様な輝きを放ち、ハインを見据えた。
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