《MUMEI》

女将が孝太の言葉を遮った。


「電車の時間があるから、そろそろ行きます!
ごちそうさまでした」


私は慌てて席を立った。


これ以上いたら、和馬との仲を変に誤解されそうだから。


「またいらして下さいね」

女将がまた言った。


…心底嬉しそうな声で。


「じゃ、俺も」


「…待て、」


「孝太さん。次の予約の件なんですけど」


女将に呼び止められて、孝太は私に追いつけなかった。


私は本当はダッシュで駅に向かいたかったが、履きなれないパンプスだったから、転ぶ心配を考えて、結局早歩きしかできなかった。

「歩くの早いね」


すぐに和馬が追いついて、隣に並んだ。


私は無言でスタスタ歩いた。


「…何か怒ってる?」


私は怒鳴りたい気持ちをグッとこらえた。


中央通りは、平日でもそれなりに人が多かった。


ここで和馬と言い合いになって、変に注目をされたくなかった。


(もう、ひたすら無視!)


「ねぇ、蝶子ちゃんってば」


無視。


私達は駅に着いた。


帰りの切符を購入する。


「まだ時間あるね」


無視。


私は、電車が来るまで三十分あるのに、自動改札口を通った

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