《MUMEI》 ホームで「もう行くの?」 和馬が私の後から付いてきた。 ホームには、ほとんど人がいなかった。 私は、自販機の近くの椅子に腰を下ろした。 「何か怒ってる?」 和馬が隣に座った。 (しつこいなぁ、もう) 「でさ、デート、いつにする?」 「…いい加減にして」 勝手に話をすすめようとする和馬を、私は睨みつけた。 「だって、さっきは…」 「あの場は、仕方なく!」 私は立ち上がり、先頭車両が停まる一番端までズンズン歩いていった。 「そんなに、俺が嫌い? 孝太の方がいい?」 和馬は私を追いかけてきた。 「別に」 これ以上進んでも、電車が来たら戻らなければならないから、仕方なく、私は足を止めた。 「じゃあいいじゃん。試しに俺と付き合おうよ」 「…別に私じゃなくても、和馬さんなら相手いるでしょ」 和馬が私にこだわる理由がさっぱりわからなかった。 「蝶子ちゃんがいいの。 今彼氏いないでしょ?」 「…いない、けど」 決めつけるような和馬の口調は気に入らなかった。 「トラウマには、新しい恋だよ。 …俺、初めての子には優しいよ?」 「何で、初めてって…」 前へ |次へ |
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