《MUMEI》

「そろそろ人が集まってくるよ?」


和馬は人差し指を


私の唇に当てた。


(調子にのらないでよ!)


ガブッ


「痛っ!」


私は和馬の人差し指に噛みついた。


「ひどいな〜!」


「大声だしちゃいけないんでしょ?
静かにしてれば」


私の言葉に和馬の目が丸くなった。


このまま嫌いになればいいと思った。


なのに…


和馬はいきなり笑い出した。


(な、何?!)


驚く私に、和馬が告げた。

「いいね〜、その反応!
マジ気に入った! うん!」


ーと。


その言葉に、私は、頭が痛くなった。


(そうだ…)


『シューズクラブ』は


よく言えば個性的な


悪く言えば変わり者な


より悪く言えば変態な


店員の集まりだった事を、私は思い知った。


それから、私は二人がけの椅子の中央に座り、荷物を横に置いて、和馬が座れないようにしたが…


「この角度も悪くないね」

ガラガラの車内で和馬はわざとつり革につかまり、私の目の前に立っていた。


帰りの車内は、和馬の話し声だけが響いていた。


十分後。


「じゃあ、明日の弁当も楽しみにしてるね」


「…仕事だから」

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