《MUMEI》

(初めて電動自転車が役に立ったな)


咲子さんは、弁当だけでなく、日替わり定食にも鶏肉を使うらしく、渡されたビニール袋はかなりの重量があった。


それでもペダルは軽かった。


私は、『ベーカリー 樹多村』の前を通った。


それから、薫子さんのいる『花月堂』と


勇さんがいる『赤岩』の前も通り過ぎた。


『赤岩』は、外から麺を打つところが見える。


私が通り過ぎた時は、勇さんの父親の修(おさむ)さんが麺を打っていた。


勇さんは、まだ見える位置には立たせてもらっていないと言っていた。


だから、あの場所に立てるのは、修さんと、


修さんの息子で、勇さんの兄の悟(さとる)さんだけだった。


それから、薬局・文房具店・スーパーの前を通り過ぎて、床屋とクリーニング屋のある交差点で、私は向こう側に渡った。


距離は離れているが、『クローバー』は『シューズクラブ』の延長線上にあったから、私は避けて帰ってきたのだった。


私は、自転車を駐車場に置くと、鈴のついたキーホルダーについている鍵を使い、厨房に入った。


鶏肉を、冷蔵庫に入れる


(お使い、終わり)


私は、鍵を閉めて階段を上がった。

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