《MUMEI》

「あ、のさ」
「‥‥ん?」

煙草を灰皿に押し付けながら、撥音だけで言葉の続きを催促する。

「‥‥そろそろ帰るね、終電なくなるし」

「あっそ。またな」

灰皿に伸ばした手が固まる、え?俺今なんて言った?
水平に視線をスライドさせると、ベッドに腰かけこちらを剥いたまま目を見開いている恋人、さっきと同じ顔、ただ彼女の目に水分が増しただけで。

ちょっと待てちょっと待て、あっそって、またなって、友人に向けるにも冷たい言葉、ましてや恋人になんか

見る見るうちに彼女の目に溜まる塩水、この距離でも表面張力が壊れるのが確認できた。

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