《MUMEI》 そして本を開くあなたは、わたしの幽霊に会いにゆく。 そのときも、あなたは怖れてはいなかった。 もちろん、なにも怖れる必要などない。 あなたは、グールドのモーツァルトに駆動されるマシニックなシステムになったのだから。 あなたは、歩きながら携帯電話を操作する。 あなたは、携帯を使って思考しているといってもいい。 なぜなら、そこにはあなたのすべてが入っているのだから。 あなたが携帯を使用して会話した記録。 そしてあなたの行動の記録。 また、あなたが未来に行動する予定も分刻みで書き込まれている。あなたは予定が埋まっているととても安心した。 あなたにとって恐ろしいのは、予定の決まってない時間。 自由時間ほど、あなたにとって堪え難いものはない。だからあなたは全てを予定で埋め尽くす。 あなたはスケジュール帳を開き、学校へ行く予定を書き込む。わたしの幽霊にあう時間も記入する。 そして、帰宅する時間も変更して就寝するまでの時間をずらせてゆく。 あなたは、そのスケジュールが有るから途方にくれることもなく、不安に襲われることもなく歩いていくことができる。 学校の裏手にある森。 その森奥深くについたとき、日は西へ傾き空を赤く染め上げていた。 天頂は濃い藍色に沈み、燃え上がる赤は青と混ざり合いながら暗い森の上で輝く。 そしてあなたは、隠者の幻影のような旧図書館へとついた。 あなたは、静かに眠る過去の英知がつくりあげた迷宮へと足を踏み入れる。 あなたは。 そして、扉を見つける。 わたしと同じように階段を昇ってゆき。 そこに、本があった。 空を深紅に染める夕日が、本の表紙に金色の文字を浮かび上がらせる。 「book of saturday」 あなたは、その本があなたをまっていたのだと思う。 そしてあなたは、ページをひらいた。 前へ |次へ |
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