《MUMEI》
水晶の城みたいな
病院で、あなたは色々な検査を受ける。
MRIで脳をスキャンし、脳波を測定した。血をとって感染症の可能性を含め検査する。
オールグリーン。
あらゆる検査結果は、正常である。
けれども。
あなたは、話すことができない。
目はなにも映していないように、虚ろだ。
呼びかけにも反応することがない。
わたしたちのお母さんは職場から呼び出され、あなたのそばに付き添う。お母さんは混乱し、あなたが昨日まで話しをしていたことすら忘れてしまう。
確かに。
わたしもあなたも、わたしたち以外のひとたちと話すことはめったにない。わたしたち同士ですら、言葉を使った会話をすることは殆どなかった。
だって、わたしたちの心はつながっていたのだから。

翌日お母さんはあなたを病院からつれだし、自分が勤務している大学の病院に入院させた。
結局医者たちは、見当違いの結論をだす。
まあ、彼らのように低俗なひとたちに世界が刻印をあたえるなどということが理解できるはずがない。
あなたはほんの数日で退院する。
あなたは、言葉がうまく聞き取れず発語ができなくなっていたが、ひととコミュニケーションをとれるようにはなっていた。
指導員というひとが来て、お母さんに説明をする。
アスペルガーやTEACCHプログラム、構造化なんて話しをしていた。
まったくもう。
馬鹿まるだしと思う。
世界の刻印を受けたんだ。
あなたが破壊されたのは、無理もない。

だって。

わたしは、あなたの見たものがなにであったかを聞いた。
あなたは、それを絵に描いてくれたの。
黒の色紙に。
白色や銀色で鋭角てきに描かれた水晶の城。
その中には赤や黄色の光が渦巻いている。
そして、その城からは光の矢が放たれた。
いくつも、いくつも。
あなたへ向かって。
その矢はあなたに突き刺さり、そして破壊した。
あなたの頭の中で動いていた、システムのようなものを。

わたしは。
苦しい。
こんなにも。
苦しい。
あなたに手を伸ばしてもとどかないことが。
でも、まだ耐えられた。
あなたへの愛が揺らいだわけじゃあなかったもの。

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