《MUMEI》 パクってきたスコップを持ちながら深夜行動する。 この辺は昔と変わらない。 夜に寝静まり早朝に起きる。 そんなものの繰り返し。 決められたことをきちんと守れる良い子が良い大人になる……だからそれが嫌だった。 俺には狭苦しかったんだ。レイと昭一郎と三人で山を駆けた頃が1番楽だった。 弟が生まれ、最初は兄という枠に嵌められ小学生、中学生、高校生此処では俺に相応しいものは無かった。 幹裕が悪いというわけでも無いが兄にされたのは重荷だ。 恋人も家族も子供も重荷だった。 いつまでも手に入らなかった、レイだけ欲しかった。 この青草の匂いを嗅いでいるとレイと会えるのではと錯覚してしまう。 ……俺は死に顔見れなかったから。 レイは昭一郎が欲しかったんだよな……。 もっと、嫌いになっときゃよかった。 レイのことばっか思い出しちまう。 スコップを地面に突き刺したまま、掘るのを止めてしまった。 「殺したのか……?!」 急に後ろから声が掛かる。 「ジィさん……」 まさか此処で会うことになるとは……。 「殺したのか?」 「よく見ろよ。」 両手を見せた。 「お前はいつの間にか人を殺す男だ。 ……自分がかつてそうだったように。」 薄暗い中こちらへ指が蠢き首を締め付ける。 「――――クッ……」 気道が潰される……。 「自分に似て生れついたお前が何かする度に自分が問題を起こしていたことを思い出して恐ろしかった。 此処が、現実ではないと思わせた……」 その力は老人と感じさせなかった。 …………………潰される。 それは無意識を超越したもっと別のものだった。 スコップを振り上げる、軽さ。 人を物で撲る、という抵抗の無さ。 不定な正気が俺を撲る。 逃げろ、と電波を流し掻き乱す。 「埋めなきゃ……」 なんて、恐ろしい言葉を俺は平然と言うんだ。 ――――ジィさんを俺は埋めるのか? 「う…………」 良かった、ジィさん生きていた。 まだ殺していない。 まだ俺も落ちぶれてない。 結局、自分のことしか考えられないみたいだけれど。 「……俺のこと忘れてくれ。もう関わらないから。なにも見てなかった…………OK?」 ジィさんは虚ろな瞳でふらつきながらも帰って行った。 ……俺はもしかしたら人殺しだったかもしれない。 今まではただの偶然が重なって誰も死ななかっただけでいつ殺してもおかしくなかった。 殺意なんて、いくらでもある。 レイは誰か殺したいと思ったことあるだろうか……。 レイを埋める。 レイの櫛を。 大切に持っていたレイの宝物だ。 前へ |次へ |
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