《MUMEI》

「律斗……どうしたの?」

柔らかく微笑んで隣に座る。俺のことを名前で呼んでいい数少ない人だ。
目が合うと最上級の笑みを返してくれるのでつい相談したくなる。

「……本読んでくれる?」

今自分で読んでいる本を差し出した。

「いいよ。
こころ……?夏目漱石か、渋いね。」

優しく頭を撫でてくれた……甘えたくなるときもある。

読んでくれる声に静かに耳を傾けた。
この人といると優しく時間が流れる。
悩んだときはこれに限る。

「今日の律斗、昔みたい。……柔らかくないけどどうぞ。」

肩に寄り掛かっていると膝まで誘導してくれた。

「高校生って大変だね。」

口で言うと余計に噛み締める。本当、大変だ。

「今に大変ばかりじゃなくなるよ。
老いたら下らないこと、楽しいこと、全部眩しくて堪らなくなる。」

この温かい人も俺と同じ年齢だった頃があるのか……などと虚ろな記憶の中で思った。







「……っ、律斗起きちゃうから……」

「だって、膝枕してるから」

「……意味分からない ……ンン……」

頭上で同性の濃厚ラヴシーンが上映されているが狸寝入りをしておく。
俺が覚えた円滑な人間関係を築く術の一つだ。

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