《MUMEI》 矛盾マネージャーに話して、引っ越しの手伝いをしてもらった。 ただ、有理の脚のことは秘密だから、結局嘘をつかなければならなかった。 マネージャーを頼ろうとしていた矢先にこれじゃあオレの決意はどこへ? でもやっぱりすぐには変われないか。 少しずつ、少しずつだ。 オレが用意した新居は、親切な不動産屋が紹介してくれたバリアフリー・マンションだった。 これを有理に言ったらなんとなく怒りそうだったので、黙っておくことにした。 大きい家具を引っ越し屋さんが運んでくれた後、服だけは片付けてから環さんを呼んで手伝ってもらうことにした。 前の部屋で広い割には物が少なかったので、そんなに大変ではないはず。 「流理さんっ!これはどこに置きますか?」 「それは…じゃあリビングに」 「わかりました。じゃあこれは?」 まるで環さんと生活を始めるみたいでドキドキした。 幸せってこういうことを言うのかな。 *** 「有希、そろそろ新曲出すよ」 「新曲……」 そういえばオレ、レコーディングってしたことない。 「それで曲は?」 「まだ何も決定してないんだけどね。とりあえずそれだけは決まった」 そのことを有理に話したら、有理は紙の束を渡してきた。 「これは?」 「黙ってマネージャーに渡せ」 「で、でもオレは何て言えばいいんだよ?」 「……自分で見てから考えろ」 「見ていいのか?」 「好きにしろ」 ――歌詞、だろうか? 有理が考えたのか? もしかして…『春日有希』の新曲に? ――…でもどうやって採用される? 『春日有希』の双子の弟が書きました、って? とにかく、いちかばちかに賭けてやってみるしかない。 前へ |次へ |
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