《MUMEI》
雨の記憶。
〜3年前〜




私は雨が大好きだった…。



『雨だ。やったぁ〜。』




はしゃぐ私にリコは飽きれた顔で聞く。




『…はいはい。雨だとヨウスケはバイクの練習出来ないから会えるんでしたっけぇ?』




『うんっ。その通りぃ〜。行かなきゃ。』




毎日、天気予報チェックして雨予報の日にはハートマークつけてた。




『もしもし。ヨウスケ?瑠伊だけど、今日雨だから会えるでしょ?』




『おぉ。雨天中止。』




『やったぁ〜。じゃ30分で行くから待ってて。』




『了解っ。』




…雨の日は決まってヨウスケは家で待ってる。




前にこっそり聞いたんだ。



モトクロスの先輩から電話で飲みの誘いがあった時…




『…すみません。また今度誘ってください。俺、練習ばっかで全然、瑠伊と会ってないんです。だから雨の日は“瑠伊の日”って決めたんです…。』




って言ってくれてた。




もちろん、私が聞いてたことなんて知らない…。




でも一度だけ……




大会前日の雨の日…。
ヨウスケは私にウソついて練習した日があったな…。



『…瑠伊!』




『どうしたの?コウタ。そんなに慌てて…。』




『ヨウスケがバイクで事故ったって…。』




ドキッ…。




『…うそでしょ?今日は雨だからバイクの手入れしかしないって…。』




『知らねぇけど、とにかく病院行くぞ。乗れっ。』





…病院に向かう車の中…




コウタの話によると、ヨウスケは“大会前日だから”とバイクに乗ってレースコースを走って…




ぬかるんだ泥にハンドルをとられ…猛スピードのまま転倒したらしい。




転倒後は失神していて、救急車の中では意識はなかったと…コーチから連絡があったそうだ…。




…コウタの声が震えていたこともあって怖かった。




病院まで車で数十分の道程がとても長く感じた…。




『瑠伊。着いたぞ。』




“救命救急専用入り口”と書かれた看板の前で電話しているコーチを見付け、車から降り、走った…。




『ヨウスケは?ヨウスケは無事なんですか?』




私の必死な顔に驚いてはいたけど、コーチは冷静だった。




『…瑠伊さんだね。ヨウスケは大丈夫。今は意識も戻って安静にしてる。軽い脳しんとうだ。少しなら面会出来ると思うから早く行ってやりなさい。』




『…はい。ありがとうございます。』




挨拶もそこそこに、また走りだした。




『院内ではお静かに。』という立て看板に何度か、ぶつかりながらヨウスケの病室の前に着いた…。




深く深呼吸を一つして…




『ヨウスケ!』




ノックもせずに扉を開けた。




ヨウスケは元気だった…。



『おぉ。瑠伊。悪いな〜わざわざ。』




『…。』




…今までの私の心配は一体何だったのか?




湿布くさい病室にケロッとしたヨウスケ。




『…猛スピードで転倒して意識なかったんじゃなかったの?』




『おぉ。』




あっけらかんとした返事。



『…何とも無いの?』




『何言ってんだよ。結構アザだらけ…参ったよ。』




『…アザ?』




『うん。』




『バカァ〜!!』




私はヨウスケの顔を見て、安心したのとドッキリにひっかけられような悔しさで、大声で泣いた…。




ヨウスケは何度も“心配かけてゴメンな。”と言いながら私が泣き止むまで、まるで赤ちゃんをあやすようにダッコしてくれた…。




そして約束してくれたの。



“もう絶対危ない事はしない。瑠伊を心配させないから。”って。

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