《MUMEI》
*感覚*
「紫堂」

紅茶を注ぐ紫堂の手元を見て、瑠果が尋ねた。

「その手はどうしたのだ?」

「え、あ‥これはですね‥」

ためらいがちになりながらも紫堂は答える。

「少しうっかりしてしまいまして──‥」

「大丈夫なのか?」

「はい、一応処置はしましたから」

そう言って紫堂はなみなみと注いだ紅茶のカップを瑠果の前にコトン、と置いた。

瑠果は少し驚いたが、特に何も言わなかった。

ただ、少しでも傾くと零れてしまう為、瑠果はそのティーカップを両手で持たなければならなかった。

「お嬢様」

「ん?」

「あの、熱くないですか」

「いや、全く」

今度は紫堂が驚いた。

熱くないはずがない。

淹れたての紅茶は、自分が火傷をしたのとほぼ変わらない温度である。

「ああ、言い忘れていたが」

瑠果は突然思い出したらしく言った。

「私は左手の感覚が鈍いんだ」

「!?」

それを聞くなり、紫堂は慌ててカップを降ろすように言った。

カップを支えていた左の手のひらは赤くなっている。

「すみませんでした‥」

紫堂は深々と頭を下げた。

だが瑠果はキョトンとしている。

そして言った。

「お前が謝る必要は無いぞ?」

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