《MUMEI》
▽
「はあ…」
二人が出ていって私は床にヘタリ込む。
「ハハッ、折原、大丈夫か〜?」
「…疲れた、もうヤだ!」
▽
内藤にビールをグラスに注いで貰う。
「全くお兄ちゃんは酔っ払うといっつもそう!毎回あ〜やって絡んできて本当に大変なんだから!
私何回抱きつかれてキスされてるか分かんないんだから!」
――な〜んて嘘。
お兄ちゃん達が付き合ってんのバレたら世間的にまずいから。
頼むからごまかされて!!
私は飲めないビールを一口含み、苦さを堪えながら飲み込む。
「…そっか、じゃーあの二人デキてる訳じゃないんだ…」
「はあ?デキているって有り得ね〜っつうの!何言ってんの、バカ」
そうか?なんて言いながら内藤もビールを飲む。
あれ?今心なしか不味そうに飲んだ?
「じゃあ坂井さん… 彼女は?」
「あ〜あ〜いないいない!全くいない!全くたまには連れ込んでみろっつ〜んだよな〜アハハハッ!」
――はあ、なんとかごまかした!
妹に感謝しろよ!
バカ兄貴!!
「…じゃーさ、立候補してもイイ?」
「?何に立候補すんだよ」
私はビールを頑張ってまた口に含む。
「坂井さんの恋人だよ!裕斗さんの彼氏に!」
「ブッ!!!!!」
「う゛あ゛あっ!!何やってんだよ〜」
▽
私は派手に吹き出したテーブルのビールを台布巾で拭く。内藤は顔にかかったビールを洗面所で流してきた。
「ゴメン!だって変な冗談言うから!!」
私はかなり動揺しながら言う。
つかなんで私動揺してんの?
――つか凄く不安。
なんでこんなにドキドキする…なんで不安?…なんで……つか…
まさか……?
「…冗談なんて言ってない、マジだから、マジで俺、裕斗さんに…マジで惚れた…」
バンッ!!
「なんでお兄ちゃんなのよ!!」
――!!!!
――思わず…出た台詞だった……――。
――私…まさか――
―――…内藤の事……
「ゴメン、俺マジだから…、さっきの甘え方見てたらめっちゃ伊藤さんが羨ましくて仕方がなかったんだ!
な?本当にあの二人デキきてねーよな?
俺…ちょっとマジできたんだ…、裕斗さんが…好きだ」
「…内藤……」
――内藤は真剣な眼差しで私を見据えてくる。
――今更あの二人本当はデキてますなんて…
言えなかった。
私内藤が好きかもしんないなんて…
もっと言えなかった。
こんなにも辛くて悲しいのは父さんが居なくなった日以来かもしれない。
――内藤が帰った後、私は本気で…
泣いた。
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