《MUMEI》
ケータイノ履歴
ようやく有理が退院し、家に帰れる時がきた。

「何ニヤニヤしてんだよ。気持ち悪いぞ」

「だって〜嬉しいじゃん」

約半年程の入院・治療生活はとても長かった。

だんだんひとりに慣れていく自分が悲しくて、無理に仕事へ行ったり、学校で過ごしたりした。

「そういや流理、オレのケータイは?」

「あるよ。有理が電源切ったまま置いてある。取ってくるか?」

「うん。頼む」

マネージャーには、ケータイ換えたって言って、有理のケータイには連絡いかないようにしていた。

―…ただ、一応有理にも交友関係とかあって、そこらへんはどうにもできなかった。

ケータイを渡すと、何も言わずに何かを読んでいるようだった。

半年分のメールだから、ものすごい量だろう。

「流理、頼みがある」

「何?急に……」

「オレの―……芸能界最後のケジメ、残ってた」

「オレにできることなら何でもするよ」

「本当か?」

「お、おう。できる範囲でなら」

しばらく有理は黙っていた。

言葉を選んでるのか?躊躇っているのか?

「……流理…、野中早苗って知ってるか?」

「うん……知ってるけど」

有理が寂しそうに微笑んだ。

それでオレは気付く。

「恋人…?」

「バカみてぇにまだオレのこと待ってるんだ。でももう…コイツとは付き合えない。流理は相手がいるし、脚のことも……」

「有理……」

「別れを告げて欲しいんだ。オレのふりして」

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