《MUMEI》
*乙女*
5つ目のパンにジャムを塗りながら、瑠果はふと顔を上げた。

「紫堂」

「‥‥あ、はい」

紅茶を飲みかけていた紫堂はカップを下ろして答えた。

「何でしょうか?」

「いや、すまん。その──‥」

「?」

「呼んでみただけだ」

「そうですか」

「ああ。すまんな。──どうした?」

「可愛いらしいですね」

「!?っ」

瑠果は今まで可愛いらしいなどと言われた事がなかった。

「わ、私が、か?」

「お嬢様は乙女なんですね」

「お、おとっ‥?」

聞き返す瑠果に、紫堂はニッコリと笑いかけた。

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