《MUMEI》

それからしばらくして、彼女は居酒屋のバイトを辞めた。最後まで俺に顔を合わせることもなく、逃げるように去っていったようだ。
茶髪男との距離は当然のように縮まっていった。といっても茶髪男はあの日以降俺と彼女の話は一切しなかったし、他のバイト仲間にも全く喋らなかったらしい。他言すると疑ったことを今更ながら申し訳なく思う。

相変わらず大学の課題やレポートとバイトに追われ、開いた時間には新しく出来た友人と遊び、くだらないことを話してくだらないことに笑っているうちに、俺の傷痕は少しずつ癒えていった。
彼女を失う前よりも、今のほうが楽しく感じられてその心境の変化に驚く。


恋愛、友情。気持ち悪い話だが、この時俺は間違いなく青春を謳歌していた。
しかしこの時から俺は、ある意味不幸で逆説的に幸せな坂道を滑空していたことも間違いなかっただろう。

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