《MUMEI》 早苗ノ想イ「早苗、あれ―…見える?」 有理が指差す方を早苗は見た。 「車椅子?」 「…そう。あれ、オレ専用なんだよ」 早苗が固まった。 すぐに、小さく震えだす。 「え……?どういう…意味?」 「考えなくてもわかるだろ。歩けなくなったんだよ」 「そんな……。じゃあこの半年間は」 「入院してたんだよ。その間は流理に『春日有希』やってもらってた」 「なんで教えてくれなかったの!?」 「早苗はその時全国ツアー中。東京にいなかった」 早苗は泣き崩れた。 「それでも…それでも教えて欲しかった…」 ――オレはずっと盗み聞きしていた。 野中さんは泣き続け、有理は黙りこんでいた。 「別れよう。早苗」 とうとう有理が決定的な言葉を口にした。 「オレと一緒にいればどこにも行けないし、周りの目が気になる。早苗を抱き締めることもできない。それに早苗は歌手だろ?ずっとオレにかかりきりなんてできない。つーかオレが嫌だ」 ――ガタッ 「ただいま。今からお茶いれるから気にしないで」 有理にこれ以上強がりを言わせないために、たった今帰って来たように装った。 「流理……」 「…で?有理、言ったのか?」 「……言った」 「あ、そう。で、野中さんはどうしたい?」 野中さんははじかれたように顔をあげた。 「私―……私は」 それから有理をひたと見つめる。 「別れたくないわ」 「……早苗、」 「私は有理が好きよ。愛してる。有理が芸能人だからとかそんな理由で付き合った訳じゃないの。…好きなの。ただ…それだけなのよ。他に理由が必要?」 「早苗……」 前へ |次へ |
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