《MUMEI》

私が一生懸命抵抗する姿が可笑しかったのか、先生は声を立てて笑った。
私はそれが気に入らず、プイと横を向く。

「広崎は素直だな。優しくすれば、しおらしくなるし、ちょっとからかえば、すぐ怒るし。」

・・・褒められてるのか、けなされてるのか・・・
でも、あの優しい笑顔で見られると、胸が急に苦しくなる。

「雨が上がったら、少しだけ屋上に出てみるか。」

私は素直に頷いた。



雨は止み、風も吹いていたので雲も流れて、思ったより早く、屋上に出られた。

あれから得に話しをするわけでもなく、先生はなんだか難しそうな本を読み、私は雨が止まないかと空ばかり見ていた。


「あー、やっぱりいまいちだな。」
「そうですね。」

屋上の金網にもたれながら空を見上げると、雨上がりだけに、あまり星は見られなかった。

「ナレーションは夏の大三角をやるんだろ?今日は、ベガでさえ、厳しいな。」
「ベガ・・・織姫のことですね?」

それくらいは私も知っている。

「大三角の中で一番明るいからな。アルタイルもかなり明るいほうだけど、デネブは一等星の中では、暗いほうだから。」
私に説明するように、星のある方角を指差す。

天文学をやっていたのだから、当たり前なんだろうけれど、私にとっては不思議だった。先生=星のイメージがあまりにも浮かばない。星にロマンを抱くようなタイプに見えないから。

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