《MUMEI》
さよならから
偉大な人が亡くなった。
我が空手道の師。
昼夜を問わず、空手の事ばかり考えているような、普通の人間から言わせれば頭がおかしいとしか言いようが無い程の空手バカな偉大な師は、まだ夏の日差しの残る日に倒れた。

医師の診断は3日持てば良いと、絶望的な診断だった。だが、道場の誰も、恩師も諦めてはいなかった。
消毒液の充満する気持ちの悪いクリーム色の部屋で機械に囲まれて横たわる師に入れ替わり立ち替わり弟子たちは声を掛けつづけた。
目を開ける事無く、師は1日経ち、3日経ち、5日経っても一人で闘い続け、時にはこちらの声掛けにも反応を見せはじめていた。

だが、師は逝ってしまった。

師の告別式には長い長い列が続き、その偉大さに死して尚感服した。
師よ、師よ。
貴方がいかに死に立ち向かい、生きようと闘ったか我ら一門は知っている。貴方の死は嘆き悲しむべきものではなく、むしろ褒め讃えるべきものであろう。だが、だが・・・
やはり、貴方にはまだ生きていてほしかった!
まだ色々と教えて欲しい事があった!
師よ、師よ。偉大な我が師よ!
何故、逝ってしまったのか?!
この身を引き絞るような悲しみ。涙は押しやっても溢れ出そうになる。悲しみが聞こえる。すすり泣く声が聞こえる。
師よ、貴方は早すぎた。

長谷 清市ー享年62歳

風に秋の気配を感じる、夏の終わりの日だった。



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