《MUMEI》
*遺産*
「おお、そうだ紫堂」

瑠果は急に元気になったらしく飛び起きると、紫堂の方へ向き直る。

「父上の残した遺産をお前にやろうと思うのだが」

「は‥‥‥‥はい‥!?」

紫堂は呆気にとられた。

「な、何を言ってるんですかお嬢様‥っ」

「お前はいずれ私の婿になるのだから──当然だろう?」

「あの噂は本当だったんですか‥?」

「ああ。噂ではなく真実だ」

「‥‥お嬢様は流石ですね‥」

「何故だ?」

「僕が来るまでは不相応に慎ましやかな生活を‥」

「ああ、私には必要無いからな」

小さく咳払いをして、瑠果は続ける。

「それにだ。もし───‥どうした?」

「お嬢様‥もしや何か‥」

「ああ。金目当ての外道にさらわれかけた事が何度かあるが」

「ぇ」

当たり前のように話す瑠果に、紫堂は驚かずにはいられない。

「よ、よくご無事でしたね‥」

「辛うじてだがな」

瑠果の表情は一瞬だけ影をみせたが、すぐに元の笑顔に戻った。

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