《MUMEI》
*十分*
「という事だ」

「‥‥‥‥‥‥」

紫堂は無邪気に笑う瑠果を呆然と見つめた。

そして平静を取り戻すと、ようやく口を開いた。

「お嬢様、僕はお嬢様がいて下さればそれだけで十分です」

「そうか」

瑠果は満足げにニッコリと笑う。

「やはりお前は父上が見込んだだけの事はあるな」

「?」

「かつて天宮家にいた執事やメイド‥彼らは全て父上の遺産を狙っていた‥。──本当に‥ただそれだけだった」

「お嬢様‥?」

「だが──‥お前は違う」

「‥‥?」

「お前は──」

言いかけた瑠果の声が止まった。

目の前の執事が、自分を抱き締めたからだ。

「紫堂‥?」

「──ありがとうございます」

「どうした、急に改まって」

「そう言って頂けて──とても嬉しいです」

「ふふっ、楽しい奴だ」

瑠果は苦笑した。

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