《MUMEI》

事務所にいたのは、『赤岩』の勇さんだった。


「ん? 今日は飲み物用意してる暇もないって聞いたから、蕎麦茶持ってきたんだ」


「え、でも…」


蕎麦茶は確かに体にいいし、ヘルシーなケーキとも合う。


しかし、『シューズクラブ』でいつも使っている白いカップに蕎麦茶はおかしいし…


店内の雰囲気に、湯飲み茶碗は合わない気がした。


「あ、大丈夫だよ。昨日愛理に器用意してもらったから」


私の考えを察して、勇さんは箱から器を見せた。


それは、『クローバー』でも使っているオシャレな陶器の器だった。


これなら、蕎麦茶を入れても違和感は無いし、『シューズクラブ』の雰囲気にも合っていた。


「じゃ、俺、今日は祐介と交代で臨時駐車場の整備に行くから。

また、夜にね」


勇さんはバタバタと『シューズクラブ』を後にした。

「おはようございます。『ローザ』です!
て、あれ、『クローバー』も今来たとこ?」


勇さんと入れ違いで春樹さんが入ってきた。


「おはよう。今年も大変ね」


「稼ぎ時ですから!」


(すご…)


春樹さんは、大きな花束を、何回かに分けて『シューズクラブ』の店内に運んでいった。

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