《MUMEI》

「これ、全部雅彦にですか?」


春樹さんは頷いた。


「今日予約入れられなかったお客様からね。

とりあえず、生花はこれだけ。

後でブリザードフラワーも届けるよ。

じゃ、また夜にね」


春樹さんもバタバタと出ていった。


「何か…すごいんですね」

「年々加熱してるわね」


私達が迫力に圧倒されていると


「蝶子ちゃ〜ん!」


相変わらず脳天気な声が聞こえた。


「咲子さん、俊彦の相手お願いします」


私は俊彦を咲子さんに押し付けて、本日の主役の元に向かった。


「だから、俺がスニーカーじゃないのはおかしいだろう?!」


「いいんだよ、好評だから。毎年やってんじゃん」


「ほら、さっさと履きかえろ。俺が男の靴を選ぶなんて滅多に無いんだからな」

「うわ、珍しい」


三人の姿を見て、私は思わず声を上げた。


「ちょ、蝶子ちゃん」


「お誕生日、おめでとう、雅彦」


雅彦は、短い黒髪をワックスでツンツンに立てられ、黒いスーツに身を包んでいた。


反対に、いつもスーツの和馬と孝太は、Yシャツにジーンズ、スニーカーというラフな格好だった。


(そういえば、俊彦も…)

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