《MUMEI》

さっきチラッと見た俊彦は、ジーンズではないが、ジャケットは脱いでいた。


靴は見ていないが、おそらく俊彦もスニーカーなのだろうと思った。


「そうだ、蝶子ちゃんからも言ってやってくんない?
スーツにスニーカーは変だって」


和馬が言うように、雅彦は白いスニーカーを履いていた。


「せっかく俺が選んだのに」


孝太は革製の黒い靴を持っていた。


「だって…俺、スニーカー担当だし」


雅彦は私の方を見たが、私も今日位は孝太の選んだ靴を履いた方がいいと思った。


(ここは、和馬と孝太に協力するか)


私は、和馬と孝太に耳打ちした。


「「…出たよ、天然魔性」」


二人はまた意味不明の発言をした。


「いいから、お願い」


「はいはい! は〜い、雅君、座る!」


「ちょっ…何?」


「蹴らないでね、雅彦」


私は雅彦の前にひざまづいた。


「ちょっ…えっ?!」


シュルッ


雅彦のスニーカーの蝶結びをほどいて、紐をゆるめる。


「この前、やってもらったからね」


そして、私は雅彦の靴を脱がした。


「どうぞ」


「ありがと」


そして、私は孝太から受け取った黒い靴を履かせた。

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