《MUMEI》
見えない世界は
副長をその場に残し、三人は歩き出した。
どこへ向かっているのか羽田にはわからないが、とりあえずレッカの後に続く。
頭の上では警戒を解いたテラが大きなあくびをしていた。
そういえば、あの時聞いた不思議な鳴き声。
あれはテラの声だったのだろうか。
あの声に反応するかのように、マボロシは一瞬動きを止めた。
羽田はそっと頭の上に手をやった。
するとテラは、まるで餌をねだる猫のように顔をすりつけてきた。

「……なあ、やっぱおかしいよな」

突然、前を行くレッカが振り向いた。

「なんで、副長は凜たちが見えたんだ?」

「さあね」

凜が首を横に振る。
そして、羽田を見た。

「どうしてかはわからないけど、やっぱり先生はもうこれ以上関わらないほうがいいと思います」

「……だな。凜はともかく、先生はこっちの世界とはまったく関係ないんだから」

「え……」

「先生、危なっかしいし。このまま、俺たちの世界に関わって死なれても困るし」

レッカはそう言って、ひょいと羽田の頭からテラを下ろした。

「あ!」

羽田は慌てて地面に下ろされたテラに手を伸ばす。
そして、ふと動きを止めた。

「あれ?」

首を傾げ、テラを見つめる。
テラは不思議そうに羽田を見上げている。
羽田は続けてレッカに目をやり、周りの風景を確認した。
そして最後に凜の顔で視線を止める。

「……先生?」

「津山さん、わたし、見えるんだけど」

「え……?」

「見えるの。レッカくんも、テラも、この瓦礫の山も。……むしろ元の世界の方が見えない」

「え!!」

凜とレッカ、ついでにテラのかわいらしい鳴き声が同時に辺りに響いた。

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