《MUMEI》

「ほら、似合う」


私はひざまずいたまま、雅彦を見上げ、笑顔を向けた。


(よし、帰るか)


私はスッと立ち上がった。

「さ…」


「うおぉぉ!!」


咲子さんに声をかけようとした私は、俊彦の大絶叫に耳を塞いだ。


「蝶子ちゃ〜ん!
な、何て羨ましい事を雅彦にしちゃってるの!

そう言うことは俺だけにしてよ〜!!」


「俊彦には絶対しない」


私の言葉に俊彦は、今度は声にならないほどショックを受けたようだった。


「じゃ、俺の時はしてくれる?」


「しない」


「ひど〜い!」


和馬は女子高生のような口調ですねた。


「不気味だぞ、和馬」


孝太の言葉に私は頷いた。

「しかし、ひざまずいて靴を履かせてもらうという経験には興味あるな」


「他の人でやってもらえば?」


孝太に靴を履かせたい人など、たくさんいるだろう。

「例えば、女将とか」


「それよりも…」


?


孝太は私を見つめた。


「蝶子ちゃん、そっちは危険だよ!」


俊彦が叫んだ。


(一番危険なのは、あんただ)


「じゃあね、雅彦。頑張ってね。

また夜に」


「う、うん」


雅彦は真っ赤だった。

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