《MUMEI》
*形見*
「‥‥?」

ひっくり返すと、何かの文字が掘られている事に紫堂は気付いた。

「‥‥ぁ」

そこにはローマ字で主人の名が刻まれていたのだ。

「もしかしてこれは‥」

「ああ。父上の形見だ」

「そうだったんですか──」

紫堂は懐中時計の蓋を開き、文字盤に触れる。

「新品みたいですね」

「随分大事にしていたからな。毎晩のように磨いていた」

「なら頂く訳には──‥」

「いや、貰ってくれ」

瑠果が笑って言った。

「お前に持っていてもらいたいのだ」

すると頷いて、紫堂は懐中時計を握りしめた。

「──分かりました」

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