《MUMEI》

俊彦の近くに来た春樹さんは、匂いをチェックしながら叫んだ。


「え〜、入ってないよ。シャワーだけ」


「同じだ! だいたいな〜」


春樹さんは他の三人を見た。


「何で主役の雅彦がそのままなのに、他の連中が着替えてるんだよ!」


「だって俊彦がシャワー浴び始めたから。

あ、俺達は、シャワー浴びてないぜ。

な、孝太」


和馬の言葉に孝太は頷いた。


二人は、いつものように、スーツに着替えていた。


「止めろよお前ら!」


「「店長には逆らえません」」


普段敬ってもいないのに、二人は声を揃えて俊彦に敬礼した。


「お前ら…」


「はいはい、そこまで。雅彦、主役なんだから、こっち来て」


未だおさまらない怒りに震える春樹さんを、瞳さんがなだめた。


そして、一人だけ昼間と同じ服装と髪型の雅彦は、瞳さんに言われた通り、上座にあたる位置に移動した。

雅彦のスーツやYシャツは、ややくたびれて見えた。

本人にも、疲労の色が見える。


「じゃ、飲み物いれましょう」


「はい」


私と咲子さんは、皆のグラスにスパークリングワインを注いだ。


「雅彦は、ジンジャーエールね」

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