《MUMEI》

「はい、雅彦」


「あり、がと」


カップを受け取る雅彦は、やっぱりぎこちなかった。

「ねぇ、何か怒ってる?」

雅彦は、首を大きく横に振った。


「じゃあ、何で目をそらすの?」


雅彦は、『クローバー』に来てから私と一度も目を合わせていなかった。


「それは…」


「それは?」


雅彦は、最後の一口のケーキを食べ、チョコプレートをバリバリかじり、紅茶を飲み干した。


「言えない」


「何で?」


私は少し悲しくなった。


(昔は何でも話せたのに…)

「ごめん」


「じゃあ、話して」


「…言えないよ」


「どうして?」


私の悲しみは怒りに変わりつつあった。


「私が何かしたの?」


「したと言えばしたけど」

(何なの?)


雅彦の曖昧な発言に、私はイライラしていた。


「はっきり言ってよ!」


「言えないよ!
蝶子ちゃんの胸が見えたから、意識しちゃうなんて!」





「…あ」


雅彦が、口を塞いだが


その声は、私だけでなく


「どういう事だ?!雅彦!」


俊彦や


和馬や孝太


…ホールにいた、大勢の人間に響くくらい大声だった。


「む…ね?」

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