《MUMEI》

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「カレー、好き?」

「はい、とても」


短時間で作ったカレーを食べながら、青年は応える。

子猫には、いつかあげようと思って買っておいたキャットフードを小皿に移してあげた。


こうして、誰かと一緒に夕食をとるのは、久し振りな気がした。


こんな日も、悪くない。







「…本当にありがとうございました」


乾いた服に着替えた青年は、玄関で深々と頭を下げた。


「何とお礼を言ったらいいか…」

「だから、そんなに気にしなくていいって。…まあとりあえず、もう他人の敷地で倒れないようにね」


私が言うと青年は優しい笑みを浮かべて頷く。

すると、足元からにゃあ、と鳴き声が聞こえてきた。


「あら、アンタも帰んの?」

「にゃあ」

「じゃあ、途中まで一緒に帰ろうか。猫ちゃん」


青年が腰をかがめて問いかけると、応えるようにひと鳴きする。



「それじゃあ、失礼します」

「ん。お達者で」



もう一度深々と礼をした青年と、不遜な様子で鳴く子猫は、夜に溶けるようにして去っていった。





「…あ」


しまった。名前くらい訊いとけばよかった。

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