《MUMEI》

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あれから数日。

雨も降らず、溜まっていた仕事も片付いてしまい、いよいよ暇をもてあまし始めた午後のひととき。


縁側に胡坐をかき、脚の上にノートパソコンを乗せてメールチェックをしていると、「ごめんください」と控えめな声が聞こえてきた。



「ん?」



立ち上がり、庭から門のほうを見ると、そこには先日の青年の姿があった。



「あれま」

「こんにちは」

「こ、こんにちは……ああ、こっちにどうぞ」



庭に招きいれると、私は急いで縁側から部屋に入った。

座布団を軽くはたきながら縁側に戻る。



「あの、先日はありがとうございました。今日はお礼にと思って、これを…」



そう言うと青年は手に持っていた紙袋を差し出してきた。

受け取ってみると、有名な洋菓子屋さんのロゴが小さく入っている。



「やだ、こんな高そうなお菓子……いいの?」

「はい。本当にお世話になりましたから」

「じゃあ、ありがたく頂戴します。ちょっと座って待ってて、お茶いれてくるから」


私は座布団を勧めてから、紙袋を手にキッチンに向かった。

…せっかく洋菓子をもらったし、紅茶にしよう。








「お待たせ」


ゆれないように、盆を縁側にゆっくりと置く。


「何だか、縁側で紅茶ってのも不思議だけど……はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


彼がカップを手にするのを眺める。

シュガーポットから、少しだけ砂糖を入れる仕草が、何だか綺麗だと思った。

先ほど彼にもらった焼き菓子の詰め合わせから、皿にうつして持ってきたマドレーヌに手を伸ばす。

いただくね、と断ってから小さな袋を開け、遠慮なく少し齧る。



「ん、うま」

「よかった、お口に合ったみたいで」


私の呟きを拾って、彼はにっこりと微笑む。

うーん、やっぱりいい男だ。笑顔がかわいい。

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