《MUMEI》

「あ…それから――…もし僕の留守中に妻から電話があったら――…」


「はい――…社長は会議室に籠っております。………と、お応えするんでしたよね?

…お義兄さん…」


堀川はしたり顔で僕にウインクする…。


「――まぁ…そういうことだ…。」


僕は苦笑いを浮かべながら、車のキーリモコンを手に取った。



彼は第一秘書であると共に、ワカメの夫……つまり義理の弟でもある。


日頃から公私の区別はキッチリつけるよう社員には言い聞かせているのだが、この時は僕自身がその戒めから踏み出そうとしていた。


堀川には、いつもアリバイ工作を頼んでいる手前、会社で僕を『義兄』と呼んだことを叱る訳にもいかない…。


ここは、まんまと彼に一本取られた格好だ……。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫