《MUMEI》
雨の日の憂鬱
(もう、雨なんて大嫌い!)

私は大きくため息をついた。


「おはようございます」

「いらっしゃ〜い、蝶子ちゃん! 雨の中、ご苦労様」


(雨じゃ無かったら、来ないわよ)


私は、ハイテンションの俊彦を殴りたい気持ちをぐっと堪えて


「…これ」


『本日のケーキ』が入った保冷バックを俊彦に渡した。


「わぁ〜、ありがとう! ねぇねぇ、昼も蝶子ちゃんが来てくれるの?」


「…雨が止まなかったらね」


「やった〜!」


俊彦は歓声をあげた。


「じゃあ…」


「うん、またね!」


(はぁ…)


私は、『シューズクラブ』から、『クローバー』までの道のりを、重い足取りで上っていた。


今は、梅雨。


午後の降水確率は…


百パーセントだった。


(そもそも、あれがいけなかったのよね)


私は、梅雨入りした日の咲子さんとの会話を思い出していた。


『今日から梅雨入りね〜』

『ですね』


『あ〜、雨の日は配達徒歩だから、大変だわ』


『電動自転車使えませんからね』


『そうなのよ!お客様の事考えて、車も使えないから、大変なのよ』


その時、咲子さんの目が訴えているような気がして…

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