《MUMEI》

俊彦はグイグイと私の背中を押して、私を更衣室の中に押し込んだ。


「カギかけてね!」


(着替えるの決定?)


「このまま帰る!」


「ダメ! …頼むから」


(うっ…)


真剣な俊彦の口調に不覚にもときめく自分がいた。


(ダメダメ!あいつは変態なんだから!)


私は自分に言い聞かせた。

冷静に、状況を考えてみる。


ずぶぬれのジーンズは確かに肌に張り付いて気持ち悪い。


Tシャツはそうでもないが、色が白だから、気にはなる。


(仕方ない)


私は無言で更衣室のカギを閉めた。


カギの音が聞こえたのか、俊彦は何も言わなかった。

「俊彦〜?、蝶子ちゃん着替えてんの?」


「来るなよ和馬!孝太も立つな!大人しく雅彦と三人で弁当食べてろ!」


和馬の声が遠くで、俊彦の声が近くで聞こえた。


(み、見えないよね?)


私はできるだけ扉から離れ、早目に着替を済ませた。

俊彦のジャージは長くて、裾を何度も折り曲げた。


ウエストはゴムと紐だったから、調整できた。


Tシャツも、思ったより大きくなかった。


Tシャツは俊彦が十六の時・ジャージは十七の時にそれぞれプレゼントした物だった。

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