《MUMEI》

「…雅彦が、選んでくれたの?」


私は振り向いて、雅彦を見た。


何だか、雅彦に会うのも、声をかけられるのもすごく久しぶりな気がした。


「うん。…あの、この前はごめんね」


雅彦は私に頭を下げた。


「これは、お詫びの印?」

「…うん。…ダメ?」


(ダメも何も…)


実は、今まで履いていたスニーカーがそろそろ寿命だということに、私は気付いていた。


しかし、雅彦に避けられている手前、なかなか『シューズクラブ』に予約を入れられなかったのだ。


「仕方ない。許してあげるわ」


「本当?」


私は頷いた。


「ありがとう」


「こっちこそ、ありがとう雅彦」


「蝶子ちゃん、俺は?」


私と雅彦の間に、俊彦が割り込んできた。


「…別にいいって言った」

本当は、少し感謝の気持ちはあったが、私はそれを俊彦には伝えなかった。


「いいな〜、雅彦は。
感謝されて


…許されて」


俊彦がポツリと付け足した一言に、私はドキリとしたが…


聞かなかった事にした。


(俊彦が、悪いんだから!)

「じゃあ、私帰るね!」


私は慌てて『シューズクラブ』を後にした。

今度は弁当代を持って

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