《MUMEI》

ルルルル…………







「電話。」

乙矢のポケットから鳴っている。

素早く応答して乙矢は相槌だけ打って切った。

「誰…………?」

俺の質問には答えずに携帯を弄っている。





   パシャー


フラッシュが光る。

無言で写メられた。

七生に手を突っ込まれっぱなしなのに!


「あ、顔作りそびれた……」

七生、ちゃんと写ろうとしてたんかい。

「……これを漏洩されたくなかったらオールする口裏を合わせろ。」

強請だ……!

「そんな、理由言ってくれれば協力するし!」

俺、信用されてない?!

「言いたくないだ・け。」

乙矢にかつてない程の営業スマイルされた。
不気味な程の上機嫌。


「……わ、悪いことなの?!」

悪いことだったら友人として止める義務がある。

「悪くは無いよ、まあ……確かめるくらいだし。」

乙矢は俺に嘘つかないから信用していいはずだ……

「わかった。上手く言っておくから……確かめるって何を?」

乙矢は下の七生を潰さんとする勢いで俺をハグした。

先程一人で立てなかったが一心不乱に走ってみるみる小さくなって行く。
一瞬、振り向き様に

「……愛を!」

と叫んで手を振ってくれた。
あの距離じゃあよく聞き取れないけど陽気だ……。


「七生、乙矢なんて言ってた?」

今日の乙矢は風のようだった。

「……ファイオ!」

酔っ払いの聴力は信用ならない。

「……エール?」

しかし、あのテンションなら言い兼ねないかも。

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