《MUMEI》

「はい、没収」


和馬が私より先に靴下とスニーカーを奪った。


「ちょっ、…何?」


いくら毎日磨いている『クローバー』の床でも、さすがに裸足では歩けない。


「ん? お礼をしたいかなと…」


和馬が私の顎を掴んだ。


「ちょっと…やめてよ」


「あ、やっぱりさすがに何されるかわかる?
天然魔性でも?」


「…どういう意味?」


「無防備に、男を誘う小悪魔ちゃんて意味」


「なっ…」


私は、言葉を失った。


…正確には、奪われた。


和馬の唇で。


それは一瞬で、触れただけですぐに離れたが…


私は何も言う事ができなかった。


「このシチュエーションなら、最後までヤリたくなるとこだけど、さすがに職場じゃまずいよね」


(さ、最後って!)


言葉にならない私は口をパクパクと動かすだけだった。


「これ、プレゼント」


「…ちょっ」


どさくさに紛れて腰を触りながら、和馬は私のジャージのズボンのポケットに何かを入れた。


「続き、したくなったらいつでも使ってね。

じゃ、おやすみ」


和馬は耳元で囁くと、私の靴下とスニーカーを元の位置に置いて出ていった。


(あ〜、もう!)

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