《MUMEI》
恐怖と不安
「えーと……え? なあ、凜。どういうことだ?」

しばらくの沈黙の後、レッカが困ったように頭を掻きながら凜を見た。
いつもは表情が変わらない凜も困ったように羽田を見つめている。

「なにも、見えないんですか? 元の世界の風景」
「んー……」

羽田は目を凝らして辺りを見回した。
そして首を振る。

「……見えない。なにも。津山さんは?」

「わたしは、普通です。今まで通りに見えてますけど」

「そんな、わたしだけ……? どうして?」

「いや、どうしてって言われても。なあ?」

「わかりません」

三人はお互いの顔を見つめる。
そよぐ風に混じって、遠くの方から爆発音が聞こえた。

「……わたし、これからどうなるの?」

羽田の心にいまさら不安が広がっていく。
元の世界が見えないということがどういうことを意味するのか。
自分の産まれた世界で自分という存在が消えてしまうということか。
今までの短いながらも幸せだった人生が、全てなかったことにされてしまう。
そして、今いる世界は常に死と隣り合わせ。

漠然とした恐怖と不安が、一瞬にして駆け巡り、羽田の体から力が抜ける。

「わたし、帰れるわよね?」

その場に座り込みながら、羽田は呟くように言った。

「だ、大丈夫だって先生。その、今たまたま見えないだけかも知れないだろ? 時間がたったらきっと戻れるって」

レッカは「なあ?」と凜に同意を求める。
しかし、凜は考えるように眉間に僅かなシワを寄せていた。

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