《MUMEI》
花の似合う彼女。
病院に着く前に商店街が見えた。




“…一応、お見舞いだし花でも買って行った方がいいよね…。”




3年ぶりに会うヨウスケに“気のきく女”だと思われたいし…。




商店街の小さな花屋の前でバイクを止めた。




中に入るとキレイな女の人が、しゃがみこんで花を選んでいた。




“かわいぃ〜人だな〜”




つい見惚れてしまった…。



しばらくすると、その女の人と店員さんの会話が聞こえてきた。




『すいません…今日は、このお花にします。』




『はい。また例の彼にですか?』




『…えぇ。』




照れながら返事をした彼女は、もっとキレイだった。




…でも次に聞こえた店員さんの言葉に息がつまった。




『…たしか。ヨウスケくんだっけ?彼の名前。またレースで優勝したの?』




…ヨウスケ?
今、ヨウスケって言った?




私の驚きには気付かず女の人も話しだす。




『いえ…。今回はお祝いじゃなくてお見舞いなんです。…彼。すぐそこの都立第三病院に入院してて…。』




『あら〜。そう。ごめんなさいね余計なことを…。』




店員さんは気まずそうに奥に入っていった。




女の人がため息混じりで振り向くと…
目を見開いて自分をガン見している私に気付いた…。




『あの〜。』




“ヤバイ。話し掛けられる。逃げよっ。”




女の人が話し掛けてきたのを無視し、走って店を後にした…。




“さっき話してたヨウスケって…”




間違いなく、私が不眠不休で会いに向かってるヨウスケだよね…。




“なんだ…。ヨウスケ…彼女いたんだ。ふふっ…私、バカじゃん…。”




ふと、店先のガラス越しに自分の姿をみた…。




ヘルメットでぺったんこになった髪…


落ちきった化粧…


バイク用のジャケットに…


履き慣れたジーンズ…。




花屋で会った、女の人とは比べ物にならないくらい不細工な私が映っていた…。



…あの人キレイだったな〜。ヨウスケには、もったいない清楚なお嬢様タイプ。



“女の趣味変わったな…。………はぁ〜。”




…私、どうしよう。




とりあえず、ゆっくり考えたい…。




このへんでビジネスホテルでも探そう…。




フラフラになりながら、なんとかバイクに、またがりエンジンをかけた…。




すると…。




『…すいません…待って……待って下さい………。』




か細い声が聞こえた…。

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