《MUMEI》

「じゃあ、三日間は配達お願いね」


「…は?」


(何で?)


私は首を傾げた。


「それとも、三日間は蝶子ちゃんがホールに出る?」

「とんでもないです」


私は首を横に振った。


接客は苦手だった。


それに、咲子さんと話をしたくて『クローバー』を訪れる常連さんも多かった。

「じゃあ、お願いね」


「はぁ…」


いまいち納得できないまま、私は結局配達を引き受けた。


翌日。


私は七夕飾りが飾られた商店街の道を下り、『シューズクラブ』に到着した。


裏口の前で、深呼吸をする。


(どうか俊彦や和馬が出ませんように)


「おはようございます」


ガチャッ


珍しく、祈りが通じた。


「おはよう、蝶子ちゃん」

「おはよう、雅彦。その格好…」


雅彦は、いつものラフな服装でも、誕生日のようなスーツでもなかった。


「あぁ、これ? 夏のイベントは商店街の皆で話し合って、浴衣で接客することになってるんだよ」


照れながら私に説明する雅彦は、藍色の浴衣に黒い帯をしめて、下駄を履いていた。


(なるほど)


朝は洋服だったが、今頃咲子さんも浴衣に着替えているに違いないと私は思った。

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