《MUMEI》

「じゃあ、また昼間来るわね」


「うん、またね」


私は珍しく何事もなく、『シューズクラブ』を後にした。


(やっぱり雅彦が一番だな)

仲直りできて、本当に良かった。


「ただいま戻りました」


「おかえりなさい」


(わ…綺麗)


予想通り、咲子さんは紺地に赤い帯の浴衣姿だった。

生地は無地ではなく、一輪の赤い花が丁度咲子さんの右膝下にあたる部分に描かれていた。


下駄の鼻緒も帯と一緒で赤かった。


それから、咲子さんは長い黒髪をアップにして、赤い花の飾りが付いたかんざしをさしていた。


「素敵ですね」


「蘭子(らんこ)さんに選んでもらったからね」


蘭子さんは、薫子さんの母で、着付けの先生だった。

「今度、蝶子ちゃんのも選んでもらいましょうか」


「私は…いいです。
髪も短いし、似合わないですよ」


「そう? でも、夏はまだこれからだから、気が変わったら言ってね」


「はい。ありがとうございます」


(浴衣なら足も見えないし、…いいかな?)


今は地味な格好ばかりしているけれど、本当は、私は

可愛いものや綺麗なものが好きだった。


正直、綺麗な咲子さんが羨ましかった。

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