《MUMEI》

足を出さなければ、俊彦も孝太も関心は示さないだろうと思った。


(…でも、和馬はどうなんだろう?)


ふと、思った。


数日前の出来事が、頭をよぎる。


(和馬が浴衣好きなら諦めよう)


私はそう思っていた。


ランチタイムが終わり、『シューズクラブ』の配達の時間になった。


「じゃあ、行ってきます」

「気を付けてね」


私はいつものように四人分の弁当と味噌汁を持って、電動自転車に乗り、『シューズクラブ』に向かった。

「やぁ、いらっしゃい。…て、何、その顔」


(誰のせいだと…)


私は和馬を見ると、自然に眉間にしわが寄った。


今日の和馬は紺色の浴衣に黒い帯だった。


胸元が雅彦より広めに開いていて、シルバーのネックレスが光っていた。


(あれ…)


「今日はコンタクトしてないんだ?」


和馬の瞳が黒かった。


「そんな事無いよ。もっと近くで見てみればわかるよ」


和馬が私を手招きした。


「…その手には乗らないから」


私は近付くかわりに和馬の目の前に、弁当と味噌汁が入ったビニール袋を差し出した。


「バレたか、残念」


和馬は笑顔で袋を受け取った。


(まったく)

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