《MUMEI》

目の前で微笑んでいる男、駅員に捕まえられていた男、目が、鼻が、口が、体格が、写し絵より正確にぴったりと重なる。
そうだ、コイツは、
背中に氷塊が滑り落ちる、電車の中の恐怖とは比べものにならない恐怖に、身体が強ばるのがわかる。

「思い出しました?」

くすり、と道化じみた仕草で笑う男に、激しい違和感を覚える。何でここに?何で俺の名前を?何だこの、自信に満ち溢れた顔?
変だ、こいつはおかしい。
穏やかな表情の下の狂気が見えた気がして、俺は強張る口を動かす。

「も、帰るから」
「待ってよ」

短く告げて走り去ろうとすると、再び腕を捕まれる。爪を切ってあるはずの五指が手首に食い込んで痛い。

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