《MUMEI》 目の前で微笑んでいる男、駅員に捕まえられていた男、目が、鼻が、口が、体格が、写し絵より正確にぴったりと重なる。 そうだ、コイツは、 背中に氷塊が滑り落ちる、電車の中の恐怖とは比べものにならない恐怖に、身体が強ばるのがわかる。 「思い出しました?」 くすり、と道化じみた仕草で笑う男に、激しい違和感を覚える。何でここに?何で俺の名前を?何だこの、自信に満ち溢れた顔? 変だ、こいつはおかしい。 穏やかな表情の下の狂気が見えた気がして、俺は強張る口を動かす。 「も、帰るから」 「待ってよ」 短く告げて走り去ろうとすると、再び腕を捕まれる。爪を切ってあるはずの五指が手首に食い込んで痛い。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |