《MUMEI》
支度
(とは言ったものの…)


自室に戻った私は、迷っていた。


洋服は、一応ある。


というか、スーツ以外に持っている、『オシャレな』洋服は、今は一着しか無かった。


それは


ピンクのノースリーブのワンピースだった。


丈が短いし、露出度が高いので、このままでは普段着る機会が無いと言ったら、ロールアップのジーンズと白い半袖カーディガンも買ってもらった。


…選んでくれたのは


父の再婚相手の華江(はなえ)さんだった。


華江さんは、父より五つ年下の三十五歳。


地元の市役所に勤めていて、窓口で様々な届け出の受付や手続きをする仕事をしている。


父と華江さんが知り合ったのも、市役所の窓口だった。


父はその親切さと手際の良さに惹かれ


華江さんは、父の要領の悪さと危なっかしさが気になった。


父は、華江さんの母性本能をものすごく刺激する人間だったらしい。


正直、華江さんのように綺麗で仕事の出来る女性が父と再婚してくれて、私はすごく嬉しかった。


だから、華江さんが父と再婚写真を撮る時に、『蝶子ちゃんも写ろう』と言われ、買ってもらった服やもう使わない『あれ』も私は一応持ってきていた。

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