《MUMEI》
誉メ殺シ
部屋はきれいにしてあったが、目についたのは大量のDVDだった。

「これは?」

「それは全部演技のお手本にするために自分で録画したドラマとか映画です」

「勉強家なんですね」

「そんな、私はただ演技が下手だから……。流理さんに迷惑かけたくなくて」

「オレに?もうひとりの『春日有希』じゃなくて?」

環さんは慌てて首を横に振った。

「り、両方です!おふたり共演技は上手で、いつかは共演する時がくると信じてて、その時が本当に来たら恥ずかしい演技はできないなって思って……」

だんだん見ているこっちがおかしくなってきた。

我慢していたつもりだったけど、どうやら顔に出ていたらしく、環さんは「何かおかしいですか?」と尋ねてきた。

「環さんは決して演技は下手ではありません。そしてオレも演技は上手ではありません。もうひとりは別としてね」

「そんなことありません!私、流理さんの演技見てるとひとりだけなんだか光輝いているように見えるんですよ」

――なんか違う気がするのはオレだけ?

「それって……違くないですか?」

「えっそうですか?」

「多分……」

「じゃあ一体なんでしょう?」

「オレのことが好きだからじゃないんですか?」

カ――ッと環さんの顔が赤くなる。

「それは……そうなんですけど…」

環さんはどうにかしてこの感じを伝えようと頭を悩ませている。

「もういいですよ。わかりました。オレの負けです。でも、環さんだって十分素質を持ってますから」

「…そうですか?」

「ハイ」

環さんは嬉しそうに笑った。

それを見てオレも嬉しくなった。

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