《MUMEI》
おかえり
ミユウは走っていた。
もう、後戻りはできない。
いや、あの施設を脱走してからすでに、先へ進むしか道はなかったのだ。
 今までは、先へ進む機会を待っていただけだ。
自分たちを生み出した相手への復讐の機会を。
そして、もうすぐその復讐を終えることができる。
ミユウの顔に笑みが浮かんだ。

 全てが終わったあと、ようやく自分の人生が始まる。
そう、信じて。

 ミユウがたどり着いたのは、旧市街地の外れにある一軒の空き家だった。
その前で、息を切らせながらミユウは家を見上げた。
 ここへ来るのは十二年振りだ。
あの場所から逃げた後、しばらくここで身を潜めた。
そして、計画を練ったのだ。
これからするべき、しなければならない行動を。

 ミユウは一つ深呼吸をすると壊れかけた玄関のドアをそっと開けた。
ギイッと軋むドアを壊さないように閉め、中へ入る。
埃が積もった床の上に、まだ新しい靴跡がある。
ミユウはその跡を辿るように歩いた。
 足跡は一番奥の部屋へと続いていた。
そこはリビングだったのだろう。
フローリングの床に、傷んで変色してしまったソファがある。
その上に座る人影が一つ。

「……おかえり」
ミユウが声をかけると、人影はゆっくりこちらを振り向いた。
その顔を見て、ミユウは自然と笑みを浮かべる。

「おかえり、ミライ」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫