《MUMEI》

「参ったな〜」


ふと見ると、和馬は右手をやこちゃんに、左手をせいこちゃんに掴まれて身動きがとれないようだった。


(さすが、双子!)


私は心底ホッとした。


「ちょ、孝太さん!」


その時。


雅彦を振り切って、孝太が私と瞳さんの目の前に来た。


「何かしら?」


「普通、エスコートは男性の役目だろ? 交代するよ」

「結構よ」


(うわ…)


瞳さんと孝太の間に火花が散ったように見えた。


「ほら、俊彦と雅彦と咲子さんを除けば、私が一番蝶子と付き合い長いし。

もし、男性がって言うなら、春樹か克也が妥当でしょうね。

厨房にいる漫才コンビは忙しいし。

克也は俊彦の監視を任せているから、春樹にかわれば納得してくれる?」


「いや、…いい。このままで」


瞳さんのマシンガントークに、孝太はあっさりと引き下がった。


「すごいですね」


「接客業してると、いろいろなお客がいるからね」


瞳さんは余裕の笑顔で答えた。


「じゃあ、まずはちょっと面倒だけど、二階の方々に挨拶しちゃいましょうか」

「二階、ですか?」


瞳さんは頷いた。


「おぉ、よく来たね、蝶子ちゃん」

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