《MUMEI》

「またスニーカー?」


私は今日は雅彦にもらった黒いスニーカーを履いていた。


「違うよ。開けてみて」


「ここで?」


「うん、今ここで」


私は雅彦に言われた通り、箱を開けて中身を取り出した。


それは


ピンクのリボンが付いたミュールだった。


「これ…雅彦が?」


「… … うん」


雅彦は、照れているのか返事をするまで間があった。

「蝶子ちゃん、ピンク好きだったから。

今日の服装に合いそうだし、履いてみてよ」


「うん」


私は近くにあった椅子に座ってスニーカーの紐をほどいた。


「手伝うよ」


「ここは『シューズクラブ』じゃないからいいわよ」

「でも…」


私は自分でスニーカーと靴下を脱いで裸足になった。

(あれ?)


近くに置いておいたミュールが見当たらない。


「雅彦。そこはちゃんとしないとだめだぞ。

俺が見本を見せてやる」


「孝太さん」


顔を上げるとそこには確かにミュールを持った孝太が立っていた。


孝太は無言で私の目の前にひざまずいた。


考えてみたら、この位置から孝太を見たのは初めてだった。

孝太の視線は私の足に集中している気がした。

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