《MUMEI》 「‥‥っふ、ぅ‥‥ッ」 抱き抱えられるようにしてトイレを出ると、急に身体が震えだした。直弘の手が労るように俺の背中をさする。がたがた、全身が熱痙攣みたいに震えて力が出ない、歯の根があわなくて口から引き付けのような声が漏れる。別に悲しくないのに、もう死の恐怖なんて取り払われたはずなのに、目から涙が溢れる。ず、鼻を啜り上げる、無理、垂れる。 「大丈夫か」 「ん、ック、だいじょ、ぶ」 情けなくてカッコ悪くて、途切れ途切れに返すけど、声が裏返る。 直弘は優しく俺の背中をさすりつづけ、俺の眼鏡を抜き取って親指で涙を拭った。真っ黒で優しい目が不安げに俺を見つめる。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |