《MUMEI》

「‥‥っふ、ぅ‥‥ッ」

抱き抱えられるようにしてトイレを出ると、急に身体が震えだした。直弘の手が労るように俺の背中をさする。がたがた、全身が熱痙攣みたいに震えて力が出ない、歯の根があわなくて口から引き付けのような声が漏れる。別に悲しくないのに、もう死の恐怖なんて取り払われたはずなのに、目から涙が溢れる。ず、鼻を啜り上げる、無理、垂れる。

「大丈夫か」
「ん、ック、だいじょ、ぶ」

情けなくてカッコ悪くて、途切れ途切れに返すけど、声が裏返る。
直弘は優しく俺の背中をさすりつづけ、俺の眼鏡を抜き取って親指で涙を拭った。真っ黒で優しい目が不安げに俺を見つめる。

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